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富山地方裁判所高岡支部 昭和39年(ワ)200号 判決

原告 越の潟漁業協同組合

右代表者理事 宮西健朗

右訴訟代理人弁護士 梨木作次郎

同 豊田誠

同 木村和夫

被告 森国光

〈ほか一七名〉

右被告一八名訴訟代理人弁護士 中村領策

右被告杉山完治訴訟代理人弁護士 正力喜之助

主文

一、原告に対し、

1. 被告森国光は金一三一万二、〇〇〇円

2. 被告森光男は金七四万二、三〇〇円

3. 被告作田貞夫は金二二万五〇〇円

4. 被告樋上静雄は金五〇万七、五〇〇円

5. 被告帯刀常次郎は金五〇万七、五〇〇円

6. 被告大橋貞之は金五五万五、六〇〇円

7. 被告殿村輝雄は金五五万五、六〇〇円

8. 被告坂井武雄は金一三一万二、〇〇〇円

9. 被告杉山完治は金一三八万五、九〇〇円

10. 被告大橋勉は金一五五万五、〇〇〇円

及び右各金員に対する昭和四〇年一月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

11. 被告竹内友太郎は金一五万八、七〇〇円

12. 被告森朝男は金一九万八、四〇〇円

及び右各金員に対する昭和四〇年一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

各支払え。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用中、原告と被告森国光、被告森光男、被告作田貞夫、被告樋上静雄、被告帯刀常次郎、被告大橋貞之、被告殿村輝雄、被告坂井武雄、被告杉山完治、被告大橋勉、被告竹内友太郎及び被告森朝男との間に生じたものは、右各被告らの負担とし、原告とその余の各被告との間に生じたものはいずれも原告の負担とする。

四、この判決のうち原告勝訴の部分は原告において、

1. 被告森国光に対し金四五万円

2. 被告森光男に対し金二五万円

3. 被告作田貞夫に対し金八万円

4. 被告樋上静雄に対し金一七万円

5. 被告帯刀常次郎に対し金一七万円

6. 被告大橋貞之に対し金一九万円

7. 被告殿村輝雄に対し金一九万円

8. 被告坂井武雄に対し金四五万円

9. 被告杉山完治に対し金四七万円

10. 被告大橋勉に対し金五二万円

11. 被告竹内友太郎に対し金五万円

12. 被告森朝男に対し金六万円

の担保を供するときは、その被告に対し、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

「原告に対し、被告森国光は金二〇五万四、三〇〇円、被告森光男は金七四万二、三〇〇円、被告作田才一郎及び被告作田貞夫は各金二二万五〇〇円、被告樋上栄作、被告樋上静雄及び被告帯刀常次郎は各金五〇万七、五〇〇円、被告大橋保、被告大橋貞之及び被告殿村輝雄は各金五五万五、六〇〇円、被告坂井武雄は金一三一万二、〇〇〇円、被告杉山三郎及び被告杉山完治は各金一三八万五、九〇〇円、被告大橋与七及び被告大橋勉は各金一五五万五、〇〇〇円並びに右各金員に対する昭和四〇年一月九日から支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を、被告竹内友太郎は金一五万八、七〇〇円、被告森朝男及び被告森又三郎は各一九万八、四〇〇円並びに右各金員に対する昭和四〇年一月一〇日から支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」

旨の判決及び仮執行の宣言。

二、被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

旨の判決。

第二、原告の請求原因

一、原告越の潟漁業協同組合(以下原告組合という)は富山県越の潟周辺の漁民が協同してその漁業の生産能率をあげ経済状態を改善することを目的として結成された漁業協同組合であるが、富山県の策定による射水地域総合開発計画の一環として越の潟に富山新港が築港されることに伴いその構成員の保有する共同漁業権を放棄し、昭和三六年暮国及び富山県から金六、六四二万円の漁業補償金の交付を受けた。

二、右漁業補償金は共同漁業権放棄の代償たる性質を有し、その配分は「漁業権又はこれに関する物権の設定得喪又は変更」と同視すべきものであるが「漁業権又はこれに関する物権の設定得喪又は変更」について、水産業協同組合法第四八条第一項第九号、第五〇条第四号はこれが受益者である組合員の利害に及ぼす影響が大であることから総会の特別決議事項と規定しているので右漁業補償金の配分についてもまた総会の特別決議を要するというべきである。仮りに右特別決議事項でないとしても、同法第四八条第一項第六号が「剰余金処分案」が総会の議決事項であると規定しているので、右漁業補償金も共同漁業権の消滅によってもたらされる一種の清算的剰余金というべきであるからその配分については総会の議決を経なければならない。

三、そこで右漁業補償金の交付を受けた原告組合の当時の組合長被告大橋与七、理事被告森又三郎、監事被告杉山三郎、組合員被告作田才一郎、被告大橋貞之、被告森国光、被告樋上栄作ら(以下被告ら七名という)は、互に意思を通じ合って相謀り右漁業補償金を家族名義で二重取りする等不正に収受しようと企て、組合員にはかることなく右被告らによって結成された小委員会を設置し、組合員から民主的手続による小委員会の構成を要求されたのにこれを受け入れず、右委員会において補償金配分原案を作成の上、予じめ理事会においても討議検討せずに、昭和三六年一二月二三日右補償金を配分するための総会を開催した。

四、右総会においては、組合員に対し個人別配分額が討議資料として公表されず、組合員からの要求があって初めてこれを読み上げる状況であったがその際にも出席組合員が自己の配分額すら充分に聴きとれない早口で読み上げたに止り、また配分額算出の根拠についても組合員の質問に対し説明がなされず、ために組合員の圧倒的多数が右小委員会作成の補償金配分原案に反対した。そのため列席していた堀江新湊市産業課長から漁種の部門別に決議することの提案がなされ、被告大橋与七らは各部門別の配分額を読みあげはじめ、これに対し一部の部門には賛成を唱える組合員もあったが、他の部門特に組合員数の最も多いしじみ部門の組合員はこれに反対を唱えていたのに総会は終了した。

五、ところが原告組合の当日の総会議事録には右個人別補償金配分原案に対する組合員の承認の決議があった旨記載され被告らは漁業補償金の名目で次の如き配分を受けた。

1. 被告大橋与七とその息子被告大橋勉は共同して被告大橋勉名義で竹筒七六万一、二〇〇円、投網七九万三、八〇〇円の計一五五万五、〇〇〇円の補償金を受領した。

2. 被告大橋貞之とその弟被告大橋保は共同して被告大橋保名義で投網五五万五、六〇〇円の補償金を受領した。

3. 被告森又三郎とその息子被告森朝男は共同して被告森朝男名義で投網一九万八、四〇〇円の補償金を受領した。

4. 被告樋上栄作とその息子被告樋上静雄は共同して被告樋上静雄名義で竹筒五〇万七、五〇〇円の補償金を受領した。

5. 被告杉山三郎とその息子被告杉山完治は共同して被告杉山完治名義で竹筒五九万二、一〇〇円、投網七九万三、八〇〇円の計一三八万五、九〇〇円の補償金を受領した。

6. 被告森国光は同被告名義で一三一万二、〇〇〇円の補償金を受領しかつその息子被告森光男と共同して右被告両名は被告森光男名義でヤナ七四万二、三〇〇円の補償金を受領した。

7. 被告作田才一郎とその息子被告作田貞夫は共同して被告作田貞夫名義でしじみ二二万五〇〇円の補償金を受領した。

8. 被告帯刀常次郎は竹筒五〇万七、五〇〇円の補償金を受領した。

9. 被告坂井武雄はヤナ一三一万二、〇〇〇円の補償金を受領した。

10. 被告竹内友太郎は投網一五万八、七〇〇円の補償金を受領した。

11. 被告殿村輝雄は投網五五万五、六〇〇円の補償金を受領した。

六、然も、被告大橋勉、被告大橋保、被告森朝男、被告樋上静男、被告杉山完治、被告森光男、被告作田貞夫、被告帯刀常次郎、被告坂井武夫、被告竹内友太郎はいずれも非組合員であり、被告森国光は訴外大崎から組合員資格の譲渡を受けた旨称しているが右訴外人はこれを否認しており原告組合の定款所定の手続も履践されていない。また被告殿村輝雄は竹筒のみに従事し、投網に従事していない。

このように各被告が受領した右漁業補償金の配分内容は著しく公正に欠けるものである。

七、以上述べたように昭和三六年一二月二三日の原告組合総会においては個人別補償金配分原案に対する原告組合の承認の決議は存在しなかったのであるが、仮りに右決議が存在したとしても本来漁業補償金は原告組合の組合員が有する共同漁業権の放棄に対する補償として交付されたものであるから全ての組合員は総会において配分方法について充分検討し、等しく発言する権利を有すると共にこの補償金の配分を公平に受ける権利を有するところ、被告大橋与七らは前記のように組合員の総意を無視した非民主的な手続を駆使し、かつ著しく公正を欠く配分内容を決議して組合員の右各権利を侵害剥奪したのであるから右決議は公序良俗に反し当然無効というべきである。

また、前記被告ら七名は組合員の総意を無視した非民主的な手続を駆使し、かついずれも非組合員で補償金受領資格のない大橋勉、大橋保、森朝男、樋上静雄、杉山完治、森光男、作田貞夫、帯刀常次郎、坂井武雄、竹内友太郎の被告ら(しかも同被告らは当時の組合幹部の親族が殆んどである)にも補償金を配分する等著しく公正を欠く配分内容を決議して、それぞれ自己の家族に対し、もしくは自己の家族名義を乱用して不正に補償金を収受する背任行為をなした。

従って各被告は前記五項記載の各金員を不当に利得し原告組合は同額の損失を受け、右被告ら七名のため、原告組合は被告ら全員が配分を受けた合計金九〇一万一、〇〇〇円の損害を蒙ったわけである。

八、よって原告組合は第一次的に不当利得を原因として、被告森国光に対し二〇五万四、三〇〇円、被告森光男に対し七四万二、三〇〇円、被告作田才一郎及び被告作田貞夫に対し各二二万五〇〇円、被告樋上栄作、被告樋上静雄及び被告帯刀常次郎に対し各五〇万七、五〇〇円、被告大橋保、被告大橋貞之及び被告殿村輝雄に対し各五五万五、六〇〇円、被告坂井武雄に対し一三一万二、〇〇〇円、被告杉山三郎及び被告杉山完治に対し各一三八万五、九〇〇円、被告大橋与七及び被告大橋勉に対し各金一五五万五、〇〇〇円、並びに右各金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年一月九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、被告竹内友太郎に対し一五万八、七〇〇円、被告森朝男及び被告森又三郎に対し各一九万八、四〇〇円及び右各金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年一月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払いを第二次的に共同不法行為を原因として前記被告七名は各自連帯して、右損害額九〇一万一、〇〇〇円を賠償すべき責任があるので原告は被告森国光に対し内金二〇五万四、三〇〇円被告作田才一郎に対し内金二二万五〇〇円被告樋上栄作に対し内金五〇万七、五〇〇円被告大橋貞之に対し内金五五万五、六〇〇円被告杉山三郎に対し内金一三八万五、九〇〇円被告大橋与七に対し内金一五五万五、〇〇〇円並びに右各金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年一月九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、被告森又三郎に対し金一九万八、四〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年一月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

第三、請求原因に対する被告らの認否

一、請求原因一項記載の事実中原告組合が富山県越の潟周辺の漁民が協同してその漁業の生産能率をあげ、経済状態を改善することを目的として結成された漁業協同組合であること及び国、県からの補償金が六、六四二万円であったことは認めるがその余の事実は否認する。右漁業補償金は越の潟に富山新港が築港されることに伴いその用地となる区域に居住し漁業に従事する者個々に離業補償金として交付されることとなり、被告大橋与七は当時原告組合の組合長であったために利害関係を有する漁民代表者として最適任であったことから、組合員各自から漁業補償の交渉、契約の締結及び補償金の請求並びに補償金の受領に関する一切の権限の委任を受けて、右組合員の代理人として国及び県から右漁業補償金の交付を受けたのである。

二、請求原因二項は争う。右に述べたとおり被告大橋与七は組合員各自から漁業補償金の請求及び受領に関する一切の権限の委任を受けているので原告組合の総会の決議の如何に拘らず、組合員各自の配分額を定めこれを交付する権限を有している。

三、請求原因三項については昭和三六年一二月二三日右補償金配分のための総会が開かれたことは認めるが、これは被告大橋与七が独断専行を避けるためにとった処置であって組合総会における配分表の上程は被告大橋与七が決定した配分額の報告に過ぎない。その余の事実は否認する。補償金配分方法については、当時の役員ならびに各地区から選出された委員の全体委員会において検討され、かつ組合員にそれぞれ申告せしめて各自の業績を調査し、この間新湊市産業課長等の意見を徴し、原案を作成して右総会の討議に附されたのである。

四、請求原因四項記載の事実は否認する。右配分原案は多数決をもって可決された。

五、請求原因五項については総会議事録には原告主張の記載があること、ならびに同項1記載の事実中被告大橋勉が竹筒七六万一、二〇〇円、投網七九万三、八〇〇円の計一五五万五、〇〇〇円の、同項3記載の事実中被告森朝男が投網一九万八、四〇〇円の同項4記載の事実中被告樋上静雄が竹筒五〇万七、五〇〇円の、同項5記載の事実中被告杉山完治が竹筒五九万二、一〇〇円投網七九万三、八〇〇円の計一三八万五、九〇〇円の、同項6記載の事実中被告森国光が一三一万二、〇〇〇円の、被告森光男がヤナ七四万二、三〇〇円の、同項7記載の事実中被告作田貞夫がしじみ二二万五〇〇円の各漁業補償金をそれぞれ受領したこと及び同項8ないし11記載の事実はいずれも認めるがその余の各事実はいずれも否認する。

六、請求原因六項記載の事実は全て否認する。同七項及び八項はいずれも争う(原告が非組合員であると主張する被告らもすべて越の潟において漁業に従事していたものである)。

第四、立証≪省略≫

理由

(原告の第一次的請求について)

一、原告組合が富山県越の潟周辺の漁民が協同してその漁業の生産能率をあげ、経済状態を改善することを目的として結成された漁業協同組合であることは当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば昭和三六年九月一三日当時の原告組合長被告大橋与七は富山県知事吉田実と富山新港建設事業の実施に伴って生ずる漁業補償について、富山県は富山新港建設事業の実施に伴って生ずる一切の漁業補償金として国の負担分を含み総額六、六〇八万円が原告組合長に支払われることを保証し、原告組合長はこの覚書調印後遅滞なく共同漁業権の放棄の手続をする旨を約し、同月二九日右両者間にこれに基き、富山県知事の負担する額として金二、三七九万円を一〇月末日までに原告組合長に支払うものとする旨の協定が結ばれた事実が、≪証拠省略≫によれば、同年一一月一六日原告組合長大橋与七は国と第一港湾建設局長が事業を行うため原告組合長は共同漁業権を放棄するものとし国はこれに対する一切の漁業補償金として金四、二二九万円を同月末日までに原告組合長に支払うものとする旨の契約を結んだ事実が、≪証拠省略≫によれば、原告組合が右漁業補償金六千六百万円余の交付を受けた事実が、それぞれ認められ、また、≪証拠省略≫によれば、昭和三六年九月二三日に開催された共同漁業権放棄に関する原告組合の臨時総会において、川越富山県水産課長が補償金の個人配分については万全を期して円満に処理するよう要望した事実を、≪証拠省略≫によれば、原告組合が国及び富山県から交付された前記補償金のうち金一〇〇万四、〇〇〇円を組合経費引当金として処理している事実をそれぞれ認めることができ、他にこれら認定を動かすに足りる証拠はなく、更らに後記のようにその配分原案の承認を求めるための原告組合の総会が開かれたこと等の諸事実によれば、右漁業補償金は原告組合が共同漁業権を放棄したことに対する代償として原告組合に交付されたものと解するのを相当とする。(もっとも証人堀江善逸は補償は組合員、非組合員を問わず一切の漁業者を対象とするものである旨証言し、また≪証拠省略≫によれば原告組合の組合員の大多数は原告組合長被告大橋与七に対し同人を代理人として富山新港建設事業に伴う漁業に関する補償契約の締結及び補償金の請求並びに補償金の受領に関する一切の権限を委任している事実が認められるが、右証言事実を以て前記漁業補償金が、被告らの主張するような性格のものであったと解することは、前記各認定事実に照らして相当でない。)

三、ところで、右漁業補償金はこのように原告組合の存立の基盤である共同漁業権放棄の対価であるから、これは原告組合にとって一種の清算的剰余金の性質を有するものと解すべく、従ってその処分については水産業協同組合法第四八条第一項第六号により総会の決議を経ることを要すると解するのを相当とする。

四、そこで右漁業補償金配分案を審議した昭和三六年一二月二三日の原告組合の総会において配分案についての決議がなされたか否かについて見るに、≪証拠省略≫によれば右総会においては小委員会(構成員被告大橋与七、同森又三郎、同杉山三郎、同作田才一郎ほか二名)作成の個人別配分額が予じめ討議資料として公表されていなかったので、出席組合員の松原茂が、これを公表されたい旨発言し、四間丁理事がこれを読みあげたが、早口のため出席組合員中殆ど多数の者が自己の配分額を充分聴きとれない状態であり、右配分案に対しても出席組合員から漁業料によって配分したのか否か、以前操業していて現在操業していない者に対する配分が考慮されていない等種種の意見が述べられ、これに対し組合長及び役員から説明がなされたものの組合員の多数は右配分原案に反対し議場が騒然として混乱したため、その際列席していた堀江善逸新湊市産業課長が漁種の部門別に決議することを提案し、被告大橋与七らはこれに従い各部門別に配分案を読み上げたところ、投網、竹筒、引き網等のしじみを除く他の各部門の者は賛成を唱えたが、最後に配分案を読み上げられたしじみ部門の組合員多数があくまでこれに反対を叫んでいるのに被告大橋与七ら組合役員は議決の手続をすることなく(組合員の中には当日の総会に自ら出席せず、その議決権の行使を他に委任した者も若干名いるのに、これらの者については全くその意思が表示されなかった)総会を散会した事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

右事実によれば、右総会において右漁業権補償金の配分について、しじみ部門の組合員多数が反対を唱えているのに議長において賛否確認のための手段措置を何らとらずして総会を散会したものであるから右総会においては右漁業補償金の配分について総会の承認の議決そのものが存在しなかったと認められる。

五、被告大橋勉が一五五万五、〇〇〇円の、被告森朝男が一九万八、四〇〇円の、被告樋上静雄が五〇万七、五〇〇円の、被告杉山完治が一三八万五、九〇〇円の、被告森国光が一三一万二、〇〇〇円の、被告森光男が七四万二、三〇〇円の、被告作田貞夫が二二万五〇〇円の、被告帯刀常次郎が五〇万七、五〇〇円の、被告坂井武雄が一三一万二、〇〇〇円の、被告竹内友太郎が一五万八、七〇〇円の、被告殿村輝雄が五五万五、六〇〇円の漁業補償金の交付を受けた事実は当事者間に争いがなく≪証拠省略≫によれば、同被告が被告大橋保名義の漁業補償金五五万六、〇〇〇円の交付を受けたことを認めることができる。

六、被告森国光が右の金員の他に金七四万二、三〇〇円の、被告作田才一郎が金二二万五〇〇円の、被告樋上栄作が金五〇万七、五〇〇円の、被告大橋保が金五五万五、六〇〇円の、被告杉山三郎が金一三八万五、九〇〇円の、被告大橋与七が金一五五万五、〇〇〇円の、被告森又三郎が金一九万八、四〇〇円の漁業補償金を原告主張のように受領したとの点については本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

七、してみると前記五項記載の各被告らは同項記載の各金員を不当に利得し、原告組合は同額の損失を受けたわけである。

八、そうすると、不当利得を原因とする原告の請求は右各被告らに対する右各金員並びに右各被告ら中被告竹内友太郎及び被告森朝男を除くその余の右被告らの右各金員に対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四〇年一月九日から、被告竹内友太郎及び被告森朝男の右各金員に対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四〇年一月一〇日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において正当でありその余は失当である。

(原告の第二次的請求について)

一、被告ら七名が共謀して、前記漁業補償金を不正に収受しようとしたか否かについて判断するに、≪証拠省略≫によれば、前記小委員会は漁業補償金の配分を円滑に処理するため、新湊市産業課長であった堀江善逸の指示により設けられ、その構成員も前記の如く、被告ら七名が全員入っていたわけでなく、前記総会においても堀江善逸から補償金配分案作成に至るまでの経過報告及び配分案作成については対象者の漁獲高、入漁料、均等割の金額を勘案した旨の説明がなされた事実を認めることができ(≪証拠判断省略≫)、また、被告大橋勉、被告大橋保、被告森朝男、被告樋上静雄、被告杉山完治、被告作田貞夫、被告帯刀常次郎、被告坂井武夫、被告竹内友太郎がいずれも原告組合の組合員であったことは認められないが、≪証拠省略≫によれば、富山県及び新湊市は右漁業補償金の配分については組合員たると非組合員たるとを問わず、漁業に実際に従事している者をその対象とする考えのもとに原告組合を行政指導し、これを受けて前記配分案が作成された事実も認められ、≪証拠省略≫によれば、大橋保、竹内友太郎を除く前記非組合員たる被告らが、それぞれ前記漁業補償の対象となった期間中において何らかの形で漁業に従事していたことを、≪証拠省略≫によれば被告森国光、被告森光雄は原告組合の組合員であって漁業に従事していたことを、≪証拠省略≫によれば、被告殿村輝雄が投網に従事していたことをそれぞれ認めることができるばかりか(≪証拠判断省略≫)、≪証拠省略≫によれば、前記被告ら以外にも丸池甚作、殿村一之ら家族として補償金の交付を受けた者が存すること、非組合員でも二十数名のものが補償金の交付を受けたことがそれぞれ認められるのであるから、本件漁業補償金の性格が前記説示のとおりであるとして、それが組合員以外の者にも配分できるか否かの問題は別として、また仮に被告大橋保、竹内友太郎については漁業に従事していたか否かは明らかではないが、このことを以ってしても前記各認定事実に照らせば、被告ら七名に補償金配分案作成について、原告主張のような不法な意図があったと断定することはできず、他にこの点に関する原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

二、次に総会の手続等に関しては、右総会における会議の状況については前記認定のとおりであるから、仮に当日の議長であった大橋貞之(同人が右総会の議長であったことは甲第九号証によってこれを認める)が、主観的には前記配分原案を賛成多数であったと認識しても、それは少なくとも議長としての義務を怠った過失があるというべきである。

三、従って、被告大橋貞之には不法行為責任があるが、原告の同被告に対する請求はすべて前記のとおり原告の第一次的請求において認容されているのであり、他の被告ら六名については右総会の運営に関し、不法な行為があったと認めるに足りる証拠はないから、結局原告の被告ら七名に対する第二次的請求はすべて理由がない。

(結論)

よって原告の本訴各請求は前記第一次的請求についての第八項記載の限度においてこれを正当として認容し、その余はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水次郎 裁判官 定塚孝司 裁判官小島裕史は転任につき署名押印できない。裁判長裁判官 清水次郎)

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